たてただけ

三日坊主にすらなれない

私的ランキング2019 映画編

 正直今年は全く観れてなくて記事にするか迷ったんですけど、思えばめぼしいもの11個くらいしか観てなかった2016年も「ランキング!!!!!」つってやってたので、気にせず書くこととします。

 映画は20位からとします。

 

20.女王陛下のお気に入り

満ち満ちた宮殿で日々を送ろうとも満たされない女たちが、各々の「幸せ」を探る物語。
しかしその道に茨を敷き詰めあうのは、他でもない彼女たち同士。

建物も衣装も、とんでもなく華やかで美しく、視覚的に楽しくて没入してしまうけど、美しい側面だけじゃなく、泥や汚れ、最下層の醜さもまざまざと描写。
そして当時に照らし合わせて、夜がちゃんと「暗い」、いやもはや「黒」。廊下でさえも灯火の周りはなにも見えない。ソワソワさせるようなこの暗がりを利用した展開もまた面白い。

アン女王の時代だったからか、現代にアダプトしてるからか、3人は各々違う「強さ」を持つ。
アビゲイルとサラの2人は似たところにいるけども、やはりこの違いがそれぞれの行動を変えていく。そして持ちかたが変わっていって…
その2人の中心にいるのは、しかしとても中心にいちゃいけないようなわがまま王女。本能がまま、二転三転ヒステリック。オリヴィア・コールマンの怪演に釘付け。

そしてその周りにいる男の頑張りには目も向けられないのだ…

あとやはりチェックしておきたいのはランティモスの動物使い。今回最も重要なのはウサギだった。彼らのイノセンスさと人間の欲深さ・罪深さの対比は、最後の最後に非常に色濃く現れる。
でもウサギって死ぬまで発情期って言われてる、そして死ぬまで発情期なのはウサギと人間だけとも。つまり「上っ面の美しさの下に何を考えているのかは分からない」ってこと。
そしてそれを最初から分かっていて行動していたのは誰なのか。その人が放ったあの言葉は忘れがたい名台詞。

美しくそして醜い宮殿の諍い…なんて内輪っぽい話だけど、よくよく考えたらガッツリ国の行く末を巻き込む話だったりするぜ!
さあ、ご賞味あれ。

 

19.ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

喜怒哀楽が交錯するハリウッドの日常と、ヒリヒリするヒッピーとのニアミスと共に「あの日」へ向かうお伽話。
かつ、タランティーノによるハリウッドという「街」へのラブレター

冴えない中年俳優演技冴え渡るレオ&とにかくかっけぇブラピの黄金コンビがたまらん!
そしてマーゴット・ロビーシャロン・テートはただただ尊かった。自分が出た映画を観に行くシークエンスはキュートでファニーでニヤケを隠せない。

特に「映画を観るシャロン・テートを正面から観る俺たち観客」いうなんとも不思議な状況には笑っちゃうとともにその後のことを思うと感傷的にもなってしまう。俺はあの時間違いなくマーゴット・ロビーと目が合っていた。

随所で挿入される当時の作品「っぽい」映像は、登場人物とともに観客を楽しませながらも1969年に誘ってくれた。劇中レオが出演した西部劇も含めて、もうタランティーノの愛が込められまくり。彼の骨の髄まで染み込んだムービーフリークっぷりを堪能させられる159分間だった。

しかしなんといってもこの作品はブラピである。久々に一挙手一投足すべてがかっけぇヤツを見た。

ハイウェイをかっ飛ばすブラピ、レオと笑ってるブラピ、愛犬と戯れるブラピ、ヒッピー娘を優しく窘めるブラピ、ハイになってるブラピ、旧友に接するブラピ、そして容赦ない暴力を振るうブラピ!最高のイケおじだった。

この世界の片隅に」が挙げられてるのとてもよくわかるけど、個人的にそれよりも想起されたのは「12話構成の日常系アニメ」

当時の空気感に拠ったすべてが味わい深い作品。
ちゃんととんでもない笑いどころを用意しているのは流石。

さぁ、あの日の「夢の街」を覗いてみよう。

 

18.サスペリア

リビルドされた「狂気」。

アーティスティックに吹っ切れてる作品大好きだわ。正直何度も見返したいとは思わない。明らかな狂気。

グァダニーノの画的センスと、「わけわからんこと起きてる」って幻想性・不可解さが高次元でミックスされたやべー作品。
第1幕のパトリシアが博士の部屋に入るまでの省略描写がめちゃくちゃテキパキしつつも丁寧だったように、大元はめちゃくちゃしっかりしてる。それだけに壊れっぷりが如実に浮かび上がる。
「あれ、ちょっとおかしいな?」が積み重なってドライブしていく感じ。

ティルダが3役やってるのは知ってたけど、予想だにしないところでやってた…

 

17.Fate/stay night [Heaven's Feel] Ⅱ.lost butterfly

作品中幾度となく「これは大変なことになったねえ^^」、「こりゃおしまいだあ^^」と思ったが、それをどんどん塗り替えていく。全てを絶望へと叩き落とす悪趣味が過ぎるシナリオをufoの凄まじい画とともに叩きつけられた。

何よりこの作品でシナリオに勝るとも劣らぬ力強さを見せたのはufotableの画力。今作は「静」の画が異次元の境地に達している。
あと主題歌なんだが、Aimerさんの四つ打ち曲はあまりにも彼女の繊細な歌声と相対しているようで好きじゃなかった。しかしなるほど、この作品のためにやっていたのか!とすら思ってしまった。

三部作の2作目はそのシリーズの方向性や評価を決定しうる超重要な位置付けに得てしてなるのだが、須藤監督は我々に最高のアンサーを提示してみせたのではないだろうか。1章で上げに上げたハードルを悠々と超えてみせてくれた圧巻の出来。

さてこの先に何があるのか。「春」が待ち遠しい。

 

16.アベンジャーズ/エンドゲーム

MCUを愛し続けた全ての人々のための作品

SWの件を見ると、ファンの要求に応えながら価値観をアップデートさせていくのって大変なんだなあ・・・って。

まああのシーン以降からはガチ泣きしたし、ナターシャの扱い以外での不満は一切無いんですけど、JGやスパイディを巡る鼠の態度はクソほど気に入らないっすね。

外野のノイズで評価が下がってしまうのはとても辛い話ですけど。

 

15.岬の兄妹

自分が今まで見た作品の中で最もどん底の貧困
あまりに底も底すぎて、自分たちは「貧困ポルノ」として「こうはなりたくないね」なんていって消費して満足してるんじゃないかと、その心理を暴く働きをしてみせる。
そして改めて「なぜこういった作品が作られ、世に放たれていくのか?」を考えなければならないと、強く感じさせる。


兄妹の状況とともに、映るシーンの昼夜や空模様が明らかに変わっていて、それが最後まで徹底されている。どん底の夜に一線を越えてから、どんどんと明るくなっていく兄妹の視界。やってることは最悪。なのにそこには大きな「幸福」を感じる。
でもその明るい「希望」はただの搾取なんだよなあ…と冷静になって思う。まさに「弱い者たちが夕暮れ、更に弱い者を叩く」

倫理の外で無垢であり続ける真理子。

彼女を世界の残酷さを守るために、それを一手に受ける良夫。この良夫が善人であろうとしない、世の穢れに蝕まれたクズなのがとても良いんだ。

桜舞い散るような画や逆光の港と、非常に美しく印象的な画、そして最終シーン。

この作品が放たれたことによって、これから先、生半可な貧困描写は許されなくなってしまった、とすら感じる。
力強すぎる処女作。

 

14.パラサイト 半地下の家族

笑っちゃうほど滑稽な計画、笑っちゃうほど悲惨な格差。
世界共通のテーマ「格差」を描く作品に、またひとつ傑作誕生。
しかもそれがめちゃくちゃに「笑える」んだから凄い…エンタメ性十二分。

ことあるごとに映し出される「上下」のメタファーは、表面的にはめちゃくちゃに滑稽だったりするのに、明らかに根深い「格差」の影が横たわる。めちゃくちゃに胸が痛くなる…のに笑っちゃう。
しかし笑っちゃうとは言いつつも、細かい小道具にもその影を感じられるし、そのマインドに一度なってしまうと「あれもこれも…」としつこいほどに考えられてしまって、本当に苦しい。でもこの無意識のうちに顕現されるものこそが、格差の「象徴」

「この映画が描きたいのは『対立』ではなく、『問いかけ』なんです」
そう主演ソン・ガンホが語る意味を深く考えたい。

 

13.ブラック・クランズマン

潜入捜査のヒヤヒヤ・ワクワク感はもちろん、スパイク・リーが伝えたいこともしっかりと詰まった、骨太かつ「待ったなしだぞ、お前はどう思う?」と容赦なく問題提起をしてくる作品。

デンゼル息子演じるロンとKKKの電話シーンはもはやコメディ。黒人の口からとんでもない罵詈雑言が飛び出すのもビジュアル的に強烈だし、KKKの持つ黒人差別の理由をどんどん看破していく様は痛快だった。
しかしその一方で対面シーンはひとつ狂うと一気にまずくなりそうなヒヤヒヤ感が充満、そこにあまりにも危ういKKKの思想が重なり異様な雰囲気になっていた。
そんな中でアダム・ドライバーの大人しそうな顔から繰り出されるヤベー発言のギャップ。でもそもそも支部リーダーのウォルターが頭良さそうで気の大きくない典型的インテリな印象だったし、逆に彼の存在こそが、そんな人も黒人差別に傾倒しているのか、という哀れみと恐ろしさを感じさせた。
その一方でちゃんと、もはや「アイコン的」にいたポール・ウォルター・ハウザーが演じたアイヴァンホー。彼の無学でデブで…っていう救いようのないアホ演技は「アイ、トーニャ」に続いて最高なんだけど、そんなどうしようもない奴の唯一の拠り所になっているのがこの「団体」なのだと思うと素直に笑うことは到底出来ない。
彼らが射撃練習に使う的。それ自体は想像に難くなかったが、撮影時のエピソードを聞いて非常に恐ろしく感じた。

物語的には一応の完結を迎えるのだが、しかし今なお「憎悪」は終わってくれなかった、終わっていない
銃を構える人、犠牲となる人、肌の色の問題なんて「悪い意味で」消え去ってるんだ。
身勝手なイデオロギーが交差しまくる、もはや「カオス」でしかない現代をスパイク・リーは容赦なく記録し、そして突きつけて「作品」自体は終わる。
しかし作中で起こってること、今でもなーんにも解決してないよね?
作品的に綺麗じゃないという意見ももっとも。でも序盤パートで黒人活動家クワメ・トゥーレの演説をしつこいくらいに垂れ流ししたのを見れば、この最後の「実録」を入れるのは必然だ。

ロンとフリップのようなヒーローはいないのか、それともこの映画を観たそれぞれが2人の努力の火が十字架に引火せぬように灯し続けるのか。今一度考えなくてはならない。

 

12.ある少年の告白

信じ難いような人道を踏み外した行為をしても、「彼ら」はいとも容易く「神の子に戻ろう」と口にする。
極まったキリスト教(つっても宗派によるんだが)はカルトでしかないってのは「ウィッカーマン」でも描写されていたが、この問題がまさに今現在のアメリカで起こり続けているという事実壮絶。

あの狂った空間が結果として彼の才能を「開花」、というより「解放」させることに繋がったことで、青年の成長譚としても成立させる見事な構成。
回想の入りかたもなかなかにスムーズでスマート。

そして「教え」に狂ったセラピストを監督自らが演じているのが凄まじい。表現したいことと逆行した思想を持つ役を演じるなんて、相当に頭の切り替えも回転も出来る人なんだなと。
そして終盤のラッセル・クロウの名演には涙。「父」としての顔が強いけど「聖職者」として守らねばならぬものとの葛藤もあり…複雑な思いで噛み締める一語一句の演技。
ただ一方で、「抑圧」の対象がLGBTだけじゃないことをある展開で鋭く指摘している。

最後の最後に示されるあまりに恐ろしい事実には鳥肌。

原作の回想録が出版されてもなお、「矯正」施設に子を入れる親は大勢いる。
何のために親は子をこんなところに入れるの?その親心の根っこはなに?
主人公の父親はいつもはフォードのディーラー、日曜は牧師と、まさに「田舎の成功者」だった。この設定には間違いなく示唆するものがある。

しかしこの話も「いくつもある"真実"のうちのひとつ」であることを忘れちゃいけない。
この作品を受けて我々がすべきは、内容全てを鵜呑みにして、同性愛「矯正」施設を人権に反する!と糾弾する(ことも必要かもしれないが、それ)よりも、大切な人同士で、それぞれが抱える問題を受け容れ、支え合っていくことなのではないだろうか。

 

11.ハウス・ジャック・ビルト

 

フェーイム!!!!!

殺人鬼ジャックの深き深き闇へと潜る2時間半。

 

倫理観を一線また一線と飛び越えていく様が最初はとても痛快に映るし、実際に笑い所もあったり。

でもそう思えるのは表面的な行動だからこそであって、ジャックの内側まで見え始めてからはどんどんと深みに嵌められていく「笑えない」感覚。

そう、犯罪自体のグロテスクぶりよりも、シリアルキラー・ジャックの深層心理へとどんどんと深く深く潜航していくことがこの作品の妙なのだ。

 

それはもう「映画は映画」とちゃんと思って臨まないと到底受け入れられない描写だった。そう思わせた章で更にヤバいことをやってのけるのはもう「流石」だなとしか。

でも一方で「シリアルキラーの心情を綴るのであればそれくらいの覚悟を持たないとだろ」というLVTの作品に対する誠実さもまた感じる。

そしてその「受け入れがたい描写」の時から、最初のジャックからどんどんかけ離れていくのも印象的だった。

所々に監督自身の信条も垣間見えたりしたりしてメタ的なスリリングさすら。

 

シリアルキラーを色モノと規定してファニーに描いて「グロいっとく?」、みたいなのじゃなくて、「本気でシリアルキラーの気持ちを分かろうとする」スタンスで、グロはそのうちの過程でしかないからこそ、尋常じゃなくヤバイのだ。

 

場内に残った観客全てを「向こう側」へと連れて行く、「ゾッとするほど魅力的」な危険すぎる作品。

 

さて、トップ10。

 

10.バーニング 劇場版

覚悟はしていたが、やっぱりおっもい。そしてふっかい。

サスペンスらしくヒリヒリするシーンもあるが、何が真実か偽りかこそが主題。謎が永遠に残されていくむず痒さと共に一旦の「結末」を見せられるが、何一つとして心は晴れない
ヘミの住むワンルームの窓が北側にしかなくて、塔から反射した時しか当たらない状況が、もうそのままこの作品を表現しているよう。本当にジメーーーーーっとしてるけど、非常に美しく鮮烈なショットもまた映る。田舎の風景はプライスレス。
ジョンスとベンの鏡っぷりも辛いけど、ヘミのピュアっぷりがまた輪をかけて辛い。
ジョンスがクラブでボケーーーッとしてたのには笑ってしまった。

終盤にジョンスが言うある言葉。それこそが、そのままこの作品であり「現代」。

 

9.キャプテン・マーベル

MCUがまた「最高傑作」を更新

歪さも全て受け止めて人は「ヒーロー」と成る」というテーマは、第1作「アイアンマン」から連綿と受け継がれてきた精神であり、まさしく「マーベル」の名を冠すに相応しい。

序盤の敵地潜入はTPSのマルチプレイを彷彿、OWのウィドウっぽいキャラもいるから尚更ゲームの立ち回りっぽい。
そしてあからさまにスターウォーズとスーパーマン
そこそこの役職なのに悲哀が伝わる中年男性役として、メンデルソーンは完全に定着したんではないか。
ある決定的な展開のところでIMAX幅から通常幅に変わったのは面白い演出だった。
シリアスな音楽を流せるような展開で当時のナンバーをチョイスするセンス最高。
スクラルのお茶目な感じは憎めない。
そして今までのファンへの目配せと「優越感」も欠かさない。

女性ヒーローだとかヒロインだとかそういうアレの境地を、MCUはとっくに超えてる。だからこそ、最後の「キャロル」の選択はたまらない。ってかキャロルの幼少期かわいすぎ。

改めて示そう、これがMCUです」と宣言する作品を集大成のひとつ前に置いたファイギはやっぱり凄い。
新たなMCU入門編になること間違いなし。

冒頭から泣いた。

 

8.プロメア

トリガー×中島かずきがまたもやとんでもねぇデカい花火をブチ上げた!

果てしなくポップな色遣い(「スピードレーサー」みたいな気持ち悪くなるまでの極彩色ではない)の都市で繰り広げられるのは古典的なまでの「X-Men」なのだが、そこに火消し第一主義のバカことガロが絡むことでたちまちお祭りになっていく!

序盤にブチ立てる「一部の人が突然変異して火を吹き始めてアポカリプス起きました!!!」という設定の清々しいまでの無理さ。フィクションってこういうとんでもねぇ大嘘をつかれると、もうノリノリにならざるを得ない。「おっ、こいつぁ大きく出たねぇ!やるねぇ旦那!」って感じで。

今作はなんといっても堺雅人さんの使い方が大正解すぎる。制作側も本人も「堺雅人」というキャラクターをしっかりと理解しているからこそのクレイというキャラクター。私たちを弄ぶかのように本人と役の淡い境界を行ったり来たりする様はメタ的にもめちゃくちゃ面白い。でもまず大前提としてメタ視点を描いても観客に許されるレベルの名優だということと、それが声だけの演技になっても変わらなかったのは本当に凄いと改めて感じる。いつ倍返しされるのかと気が気でなかったが、もっとヤバいパワーワードを放ってきやがった。

澤野弘之さんの劇伴はもう流石の一言というか、画のクセが非常にあるだけに音楽を一歩間違えるととっ散らかりそうになるところをしっかりと締めていて、それでいてしっかり自分の色も出して「調和」しているのは職人だなと。

といった制作・脚本・演じ手・劇伴まで、それぞれの濃すぎる個性を過不足なく存分に活かしきった大・大・大快作と言うほかにないのだ。

 

7.スパイダーマン:スパイダーバース

いくら映像化といえど、「コミックがそのまんま動いてる」なんてぶっ飛びすぎな演出。でもそれが最高にキマッてる。
コロンビアのロゴからトリップさせてきて、「一体何が始まるんです?」と思わせてきてからどんどんのめり込む。
各キャラ立ちも良かった。特にポーカーの「マスク」感鑑みるに、多分あいつが一番強いんだろうなって。
友情愛情師弟成長、全部載せのフルコースで過不足なく楽しませてくれた。完璧。

ってかマイルズのスーツ格好良すぎるんだよな。

 

6.列車旅行のすすめ

これはコメディなのか、シリアスなのか、はたまたホラーなのか?
まあ結局のところ、人がおかしくなっていくさまっていうのはコメディにもホラーにも映る」ってことなのかもしれない。

序盤の「ベースの話」から、まさしく「インセプション」のような入れ子構造でどんどん深みに嵌っていく。あいつが言った「あいつが言った「あいつが言った「あいつが言った「あいつが言った………
たぶん覚える必要ないんだろうなって途中から思い始めたけど、でもそのひとつひとつのストーリーにギョッとしたり、とてつもなくシュールだったりする演出があったりしてなかなか面白いんで、割と覚えられたりする。そしてしっかりその後に絡んできたり、全然絡まなかったりする。そしてそこから新たな展開が更に始まっていく。んでもってベースストーリーの中に出てくる「彼」の存在が、更に謎めいたものに。

悪趣味・ナンセンス・エロ・グロが積み重なりつつも、どんどんと「言葉の迷宮」に誘われる感覚と、「笑い」と「恐怖」のあいだを行き来するスリリングさ。

3章に分かれてはいるんだけど、果たしてそのサブタイトルと内容にどんな関連性があるのかは正直理解できない。でも理解できなくていいかも。そう思わせた時点でこの作品の勝利か…

配給あってほしい。

 

 

5.ジョン・ウィック:パラベラム

最高にイかれた殺し屋天国へようこそ!!!!
戦闘のバリエーションや展開の目まぐるしさからしてもシリーズ最高の出来なのは間違いないぜ!

でも今作の出色はハル・ベリーだ!
アトミック・ブロンド」でシャーリーズ・セロン姉貴によって披露された、体格差をカバーする立ち回りを継承。そして「犬」というアドバンテージを得て大暴れ!新鮮かつ大胆、87/Elevenにしかできない最高のアクション戦術を魅せてくれた!

イカれポンチジャパニーズ・ニンジャマスターも最高!刀とチームワークを駆使した「仁義」重んじるアサシンの「強者(ツワモノ)」ぶりを堪能してくれ!

そしてとても新鮮だったのは「弾切れからの装填」のアクションシーン。
このシリーズが弾切れまでちゃんと含んだアクション・シークエンスを描くのはおなじみだけど、この動作がここまで強調されたシーンはなかったように思う。観客の期待をどんどん更新していく87/Eleven!

ビジュアルとステージ設定も最高にイカしてるし、なにより今作はマトリックス」オマージュの緑使いがとても映えていた。チャドとキアヌの物語が始まった作品に20年たった今立ち返る意義深さにしみじみ。

マトリックス、悪女、当然アトミック・ブロンド、そしてRe:Born!
2019年時点でのアクション映画の総決算、かつネクストステージへと向かっていく「ババヤガ」をしかと、しかと刮目せよ!

 

 

4.ジョーカー

ジョーカーというキャラクターが何故ここまで突出して人々を惹きつける、「悪」のアイコンであり続けているのか。
言動のカリスマ性や得体の知れなさなど様々な側面があるが、なによりも大きいのは、リアルとフィクションの狭間に位置していると思わせる「半実在性」ではないだろうか。それを改めて強く感じさせる作品だった。

ダークナイト」のスペクタクルも、「スーサイド・スクワッド」の祭り感もない。あるのはただただ廃れた「生活」だけ。
しかしそれでもこの作品は、11年前のヒースのジョーカーと同じく後世に大きな影響を与えることは不可避。

この作品は観賞の際に、ひとつフィルターを置いて考えなければならない。そっくりそのまま受け止めて受容するのは、とてもじゃないけど危険すぎる。

見ておくといい作品は、とにもかくにも「キング・オブ・コメディ」。本作へのオマージュが良い出来事も悪い出来事も。全てがふんだんに詰め込まれている。
なにより、「KoC」ではルパートとして出演したデ・ニーロが今作でジェリー側となって出演していることにこそ大きな意味がある。

そしてホアキン・フェニックス
「表情は笑っているのに感情は悲しみを感じている」、二つの相反する感情を抱いた顔を演じるという離れ業を序盤からやってのけている。更にそれが突き詰められていくと、もう「笑っているし表情も笑っているのに心は笑っていない」ということを、ただの「笑い」の演技だけで観客に理解させている。あと上手すぎず下手すぎずなダンスのキレ。本当に凄い。圧倒された。作品賞はどうなるか分からないが、ホアキンはオスカー絶対獲ると思うんだけどなあ。

「笑いと哀しみは表裏一体」とはよく言ったものだが、思えば「ハングオーバー!」シリーズで世界中を笑いの渦に包み込んだトッド・フィリップス監督が、今作で世界中を悲しみへと誘うというのは、なんとよく出来た「コメディ」か。

あと触れておくべきなのは、この作品があくまで「バットマン」の派生作品であるということ。
ジャスティス・リーグ」においても、フラッシュに「アンタのスーパーパワーは?」と聞かれて" I’m rich."と答えるのが笑いどころになるほど。そんな「勝者」が様々なガジェットを駆使して戦うコミックヒーロー。この作品には、そんな「ゴッサムの正義の象徴」はいない。スカッとする「アクション・コメディ」はもちろん、「リアル志向なアクション描写」もありゃしない。
希望のない社会だからこそ、ジョーカーの思想が入り込む隙がある。

はてさて、いま我々の生きる「リアル」はどうだろう。
新たなる「道化王子」は、我々に大きな「問い」を突きつけた。

 

 

さてベスト3。

 

 

3.ミスター・ガラス

上映終了直後からじわじわと「あれ、これひょっとしたらめちゃくちゃすごい映画なんじゃねーか?」って思いが強くなった。

スーパーヒーロー映画でありながら、シャマランのスリルが加わり、更にすべての人へ向けた愛の結晶でもあって、そして最大19年間追い続けたファン達への餞。
最後の最後にこのタイトルであるべきだと納得。
マカヴォイ七変化は前作以上にすごいことになってる。
ゆったり進行で退屈に感じたのがたまに傷かも。

多くの少年達が熱狂したサム・ライミスパイダーマンに先駆けて「アンブレイカブル」という楔を打ち込み、ヒーロー映画が飽和した16年後、「空想は空想」という「現実」に縛られた元少年達に、「スプリット」で自らの存在を思い出させ、そしてMCUがひとつの区切りを迎える今年、エンドゲームに先駆けて「ミスター・ガラス」で自らの物語を〆る。
ダークナイトMCUも、全ては彼の示した道の上にあった。
ありがとうシャマラン。

 

 

2.COLD WAR あの歌、2つの心

「ずーっと会えない〜せつない〜」みたいなやーつだと思ってたら全然違った。むしろ「ララランド」のテイストすら感じさせる、音楽に生きた2人の切なきロマンス

モノトーンの画から東西それぞれにあった魅力を感じながら、一方で残酷なまでの差が表されていた。だって東側での画だと50年代にしか見えないのに、西側だと現代に見えなくもないんだよ…と素直に思わせる素晴らしい時代演出。「異国情緒」の魔法は凄まじい。

「音楽劇」としても素晴らしかったのはサプライズ。東の民俗音楽は勿論のこと、西でジャズを聴けるとは。そして白眉はそれらが交わる瞬間。カチューシャも聴けます。

度を越したお転婆だったズーラの、国や思想や環境に振り回されようとも貫いた、愛おしいほどに純粋な思い・願いに心締め付けられた。

ノートルダム大聖堂が映し出されていたのは件の後だとなんとも切なく。

 

 

 

1.HELLO WORLD

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ナメてた恋愛映画は、映画オタクが作った超ブッとんだシロモノでした。
はいっ、久しぶりに食らいました。
古今東西様々なSF作品のエッセンスを総動員して綴られる、「セカイ」に生まれたあるひとつの恋の話。

それこそ前半は本当に「よくある」恋愛ものにSFが少しばかり絡んで…といった形なんだが、そのゆるいテンションから一気に畳み掛けてくる後半は凄まじかった。


とにかく名作へのリスペクトを感じさせる場面がてんこ盛り。「あ、あれのやつ!これはあのやつ!」が目まぐるしく絡みに絡んですごいものを見せてくれる、映画ファンにとってはただただ至福の時間。

そしてもう一行さんが最高にかわいい綾波の控えめさとアスカのツンをいいとこ取りした、「リズと青い鳥」の鎧坂みぞれのごとく透き通るような紺のロングヘアの「みんな大好きに決まってる」キャラクター。かわいい。そら頑張るわな。かわいい。

ってか「先生」を演じた松坂桃李さん…声の演技もめちゃくちゃ上手いな!!!孤狼の血」で桃李の女になってた俺だけども、観てる間は知らなくて、細谷佳正さんかと思った。エンドロールで知った時は本当に驚いたけども、声を考えるともう納得も納得。ってかよくよく考えたら、2人とも「この世界の片隅に」の周作さんだった。

舞台が京都であることを十二分に活かされた登場キャラ、展開、そしてネタだったことも地味に素晴らしいと思います。ロケハンしてなんとなくの綺麗さで…ってなりがちなところ、京都でなければならない「理由」をちゃんと持っている。

 

ってか音楽がしっかり良いんだよな。2回目観たら1回目よりガッツリ泣いてしまった。ナルバリッチ、エモい

 

セカイ系全体の欠点なので仕方ないところではあるけど、絡んできたら面白そうなキャラが本筋に全然入ってこなかったのは少し残念。あと日本のCGアニメに感じる「違和感」ってどうしても拭えないものなのかな…

ただそういった欠点を差し引いても、映画ファンほど楽しめる、大傑作SFアニメだった。クラシック化は間違いないかと。

やってやりましたね、伊藤監督、野崎さん。


書いた頃はまさか今年ベストになるとは思ってなかったけどな!!!!!!

 

1.HELLO WORLD

2.COLD WAR あの歌、2つの心

3.ミスター・ガラス

4.ジョーカー

5.ジョン・ウィック:パラベラム

6.列車旅行のすすめ

7.スパイダーマン:スパイダーバース

8.プロメア

9.キャプテン・マーベル

10.バーニング 劇場版

 

11.ハウス・ジャック・ビルト

12.ある少年の告白

13.ブラック・クランズマン

14.パラサイト 半地下の家族

15.岬の兄妹

16.アベンジャーズ/エンドゲーム

17.F/sn HF 2

18.サスペリア

19.Once upon a Time in Hollywood

20.女王陛下のお気に入り

 

 

2020年の映画で期待することと目標

・ミッドサマー、007、テネットはよ

・列車旅行のすすめが全国公開されるか

・シンエヴァ公開前にエヴァ全部見たい

・ちゃんと邦画実写も観る

・週2本ペースなら100本いくと思うので、なんとか頑張っていきたい

 

 

けっこう文章力が向上した1年だったなあと、今年初めのレビューの薄さを見てかなり感じる。

来年も素晴らしい作品に、人生を変える作品に出会えますように。